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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)1633号 判決

原告 親睦会

被告 前田作太郎 外五名

主文

原告に対し、被告前田作太郎は金一九、八〇〇円、被告東方二三四は金三五、三〇〇円、被告原菊太郎は金一九、八〇〇円、被告上田音次郎は金七四、九〇〇円、被告山田荒太郎は金一九、八〇〇円、被告中島幸三郎は金九、九〇〇円及び夫々右金員に対する昭和二九年四月一二日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

被告東方二三四、被告上田音次郎に対する原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は被告前田作太郎に対し金六、六〇〇円、被告東方二三四に対し金一二、〇〇〇円、被告原菊太郎に対し金六、六〇〇円、被告上田音次郎に対し金二五、〇〇〇円、被告山田荒太郎に対し金六、六〇〇円、被告中島幸三郎に対し金三、三〇〇円の各担保を供するときは原告勝訴部分に限り夫々仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、三項同旨(但し第一項中被告東方二三四は金三五、五〇〇円、被告上田音次郎は金七五、九〇〇円)の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告会は、訴外東方義一を中心として会員相互の親睦と資金融通の目的をもつて昭和二六年一月設立せられたる頼母子講会であり、代表者の定めある団体であつて、はじめ右訴外人が講元として原告会を代表していたが、昭和二九年三月一〇日以降は丸岡愛之助がこれに代り代表者に就任した。而して原告会は総口数四三口、一口の掛金は昭和二六年二月から昭二九年八月まで毎月金三、〇〇〇円とし、毎月一〇日に講会を開催し、出席会員の入札の方法により借用者を定め、落札者は爾後毎月右掛金に利息として金三〇〇円を附加して支払うことを定めた。被告中島幸三郎は半口の会員、その他の被告等はいづれも一口の会員であるところ、被告等は左記講会において夫々落札したものである。

被告前田作太郎は昭和二六年四月一〇日、一口、

同 東方二三四は同年八月一〇日、一口、

同 原菊太郎は同年九月一〇日、一口、

同 上田音次郎は昭和二七年八月一〇日、一口、

同 山田荒太郎は昭和二八年一月一〇日、一口、

同 中島幸三郎は同年四月一〇日、半口、

然るに被告上田は昭和二八年一〇月分の内金二、三〇〇円及び同年一一月から昭和二九年二月迄一箇月金三、三〇〇円の掛金を支払わないし、同被告を除く爾余の被告等はいづれも昭和二八年九月から昭和二九年二月迄一箇月金三、三〇〇円(但し被告中島は金一、六五〇円)の掛金を支払わないのである。尚被告東方は被告上田の掛金債務につき保証を為し、被告上田は被告東方、同前田及び同原の掛金債務につき保証を為した。よつて原告は各被告に対し各自の右延滞掛金債務及び被告東方、同上田に対してはこの外その保証債務の履行並びにこれに対する本訴状送達の翌日なる昭和二九年四月一二日以降完済に至る迄年五分の割合による損害金の支払を求めると述べ、被告等の抗弁事実を否認した。〈立証省略〉

被告等は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の抗弁として、原告会が、訴外東方義一によつて原告主張の日時にその主張の目的をもつて設立せられたる頼母子講会の団体であること及びその代表者は当初より訴外東方義一であることは認めるが、代表者の定めあるものでなく、又丸岡愛之助は代表者ではない。従つて右丸岡を代表者とする原告の本訴は不適法であると述べ、本案の答弁及び抗弁として、原告はその主張の如き講会であつてその主張の如き定めのあること、被告等は原告主張の通りの会員であつてその主張の日夫々落札したこと及び原告主張の如く掛金未払の事実は認めるが、被告等の掛金支払遅延については原告会よりその猶予の承諾を得ているものであり又原告会は昭和二八年九月以降講会の開催なく事実上解散してしまつたのであるから、当初の約定通りの支払義務を認めることはできない。しかし東方義一が被告等の正味手取金の返済を請求するならばこれに応ずるものであると述べた。〈立証省略〉

理由

先づ本案前の抗弁につき判断する。原告会は昭和二六年一月訴外東方義一を中心として設立せられたる頼母子講会であつて会員の親睦と相互の金融を目的とする団体であること及びその設立の当初訴外東方義一が代表者であつたことは当事者間に争がない。而して後記認定の如く、その後更に丸岡愛之助が代表者に選任せられ就任したから、現に右東方と丸岡の両人が代表者として存在する以上、原告会は民事訴訟法第四六条にいう代表の定めある社団に該当するものというべく、従つて同条の規定により当事者能力を有するものと認むべきはいうまでもない。然るところ原告は昭和二九年三月一〇日東方義一は解任せられ丸岡愛之助が、これに代り代表者になつたと主張するので、案ずるに、証人釈久子の証言とこれにより成立の認められる甲第一号証、証人中川重太郎の証言及び原告会代表者丸岡愛之助本人尋問の結果を綜合すると、原告会は訴外東方義一を講元とし同人を代表者として発足し、同人は掛金、掛戻金の徴収、落札金の交付、講会の招集等会務一切の世話をしていたが一年余りでこれをしないので実弟の東方清九郎が代理して右業務を処理していたところ、同人も昭和二八年八月頃から会務を忠実に執行しなくなつたので、昭和二九年三月一〇日講員中の未取者九名の内丸岡愛之助を除き訴外中川万太郎等八名は右丸岡を原告会の代表者に選任の決議を為し、同人も即日その就任を承諾し、爾来同人が諸般の会務に当つていることが認められる。右認定に反する被告山田荒太郎本人の供述部分は措信しない。尤も証人西岡清作、同中川重太郎及び被告山田本人の各供述とこれにより成立の認められる乙第一号証に徴すれば、右決議に参加し、決議書に調印したもののうち右西岡、中川両名は決議の趣旨を理解してこれを為したものでないことが認められる。しかしながら凡そ頼母子講会においてはその既取講員は将来掛戻債務のみを負担するに過ぎないのに反し、未取講員は入札等による給付金の受領或は掛込金の返還請求権等を有するから、両者は各自講会の運営につき関心の程度もしくは利害関係を異にすること勿論であり、従つて何人を講会の代表者に選任すべきやの事項においても、既取講員は概して利害関係なく、ひとり未取講員のみ深い利害関係あるものというべきであるから、右代表者は未取講員の過半数の決議をもつてこれを選任し得べきものと解するを相当とする。従つて叙上丸岡愛之助を原告会代表者とする選任決議は、たとえ上記の西岡、中川の二名を除いても猶未取講員の過半数にて為されたものであることが明らかである以上、その有効たるを失わないものといわなければならない。而して訴外東方義一解任の決議が為されたことはこれを認むべき証拠はないから、特段の定めがない限り原告会を代表する者は東方義一及び丸岡愛之助の両名であり、而も右両名は各自原告会を代表する権限を有するものというべきである。然らば丸岡愛之助を代表者として提起せられた原告の本訴は適法であり、従つて被告等の本案前の抗弁は採用できない。

次に本案につき考えるに、原告は会員相互の親睦と金融を目的とする無尽講会であつて総口数四三口、一口の掛金は昭和二六年二月から昭和二九年八月迄毎月金三、〇〇〇円、毎月一〇日に講会開催し出席者の入札により講金借用者を定め、落札者は爾後毎月右掛金に三〇〇円を附加して支払う定めであること、被告中島は半口、その他の被告等は一口の会員であつて、夫々原告主張の日落札したこと、被告前田、同東方、同原、同山田はいづれも昭和二八年九月より昭和二九年二月迄一箇月金三、三〇〇円の割合による掛金一九、八〇〇円、被告中島は同期間一箇月金一、六五〇円の割合による掛金九、九〇〇円、被告上田は昭和二八年一〇月分内金二、三〇〇円及び同年一一月より昭和二九年二月迄一箇月金三、三〇〇円の割合による掛金一三、二〇〇円、合計金一五、五〇〇円の各支払を延滞していることはいづれも当事者間に争なく、被告東方は被告上田の掛金債務につき保証を為し、被告上田は被告東方、同前田、同原の掛金債務につき保証を為したことは各被告において明らかに争わないのでこれを自白したものと看做される。然らば原告に対し被告前田、同原、同山田は夫々右延滞掛金各金一九、八〇〇円、同中島は同金九、九〇〇円、同東方は自己の右延滞掛金一九、八〇〇円の外同上田の右掛金債務金一五、五〇〇円、合計金三五、三〇〇(原告は金三五、五〇〇円の請求を為すも誤算と認める。)、同上田は自己の延滞掛金一五、五〇〇円の外同前田、同東方、同原の右掛金債務金五九、四〇〇円、合計金七四、九〇〇円(原告は金七五、九〇〇円の請求を為すも誤算と認める。)を夫々支払うべき義務あること明らかである。

被告等は右掛金支払の遅延については原告会よりその猶予の承諾を得た、又原告会は昭和二八年九月より講会を開催せず事実上解散したと主張するけれども、この点に関する証人西岡清作及び山田荒太郎本人の供述は後記証拠に照らし措信し難く、他にこれを認むべき証拠はない。反つて原告会代表者丸岡愛之助の供述によるに、原告会は被告等に対し掛金支払猶予の承諾を与えたことのないことが認められ、又同代表者本人及び証人中川重太郎の各供述に徴すると、原告会は運営困難の中にも丸岡愛之助が代表者として会務を処理し醵出された掛金をもつて講会を開催し、事実上解散していないことを認めるに難くない。従つて被告等の右主張は採用できない。

そうしてみると、被告等に対し叙上各自の掛金債務、被告東方、同上田に対してはその外上記保証債務の履行とこれに対する本訴状送達の翌日なること記録上明らかな昭和二九年四月一二日以降完済に至る迄民法所定年五分の割合による損害金の支払を求める限度において原告の請求は正当であるからこれを認容し、被告東方同上田に対するその余の請求は失当であるからこれを棄却し、民事訴訟法第八九条、第九二条、第一九六条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 畑健次)

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